真面目で冷淡な彼が豹変するとき

――ドクンと、大きく心臓が跳ねた。


そこに映った中邑くんの表情は、さっきまでの怒っていた表情じゃなくて。


悲しそうな、泣き出してしまいそうな、そんな表情。


そんな中邑くんに、胸が締めつけられるように苦しくなる。



「僕の顔をちゃんと見て。僕を見たくないくらい嫌いなんですか?」

「え……?」

「僕の今までの先輩への態度に、嫌いになってしまったんですか?」



……何を言ってるんだろう。


嫌い?


私が中邑くんを?


……そんなことあるわけないじゃない。


むしろ、好きの気持ちが大きくなって苦しいのに。



「……中邑くんこそ、彼女がいるのに私なんかに時間を使って。そんなの彼女に悪いよ」

「……彼女?」

「私見ちゃったんだよ、昨日。廊下を女の子と楽しそうに歩いているところ」


その子、彼女なんでしょう?

そう続けて言いたかったけど、言えずに目線を横に逸らす。


中邑くんは、何も言わない。

しん、と静かな時間が流れる。


やがて、ふっと笑う中邑くんの声が聞こえた。