アンドロイド♂との不思議な同居生活

 それからしばらく、俺は高橋に愚痴を聞いてもらった。そしたら、少しスッキリした。やはり持つべきは友であり、同期だ。
「そういえばさ、お前。"あの噂"、聞いたか?」
「なんだよ、あの噂って」
唐突に高橋が話題を変えてきた。
「近々、うちの会社にアンドロイド社員ってのが試験的に導入されるらしいぜ」
「アンドロイド社員?」
「あぁ、いわゆる"ロボット"ってやつさ」
少し現実離れした話に、俺は思わずギョッとした。
「マジか?」
「あぁ、マジもマジ、大マジだよ。社長もかなり乗り気だって話だ」
「でも、うちの会社のどこにそんな予算があるんだよ。アンドロイドだってタダじゃないんだろう?」
「俺も詳しくは知らないが、どうやら国からの援助もあるらしい。もしかしたら、国を挙げての国家プロジェクト的なやつかもな」
「もしロボットが俺らの代わりに仕事をするようになったら、俺達はお払い箱ってことになるな」
「まぁ、そうなるな」
「お前はまだいいよ。俺なんか真っ先に切られるだろうな・・・」
「そんなことないさ。お前にはお前にしかできない仕事もあると思うぜ、俺は」
「俺にしかできない仕事、ねぇ・・・」
俺達はこの後、閉店時間ギリギリまで呑みに呑みまくった。この日の酒は、これまで呑んできたどの酒よりも美味しく感じた。
「じゃあまた、会社でな」
「あぁ」
帰ろうとする高橋を見て、俺はまだ自分が高橋にお礼を言っていないことに気付いた。
「高橋!」
俺は慌てて高橋を呼び止めた。気恥ずかしさが邪魔をして、一瞬言葉に詰まる。
「今日は、その・・・なんだ・・・ありがと、な」
「礼なんていいって。気にすんなよ。俺達同期だろ?水臭いことはお互いなしにしようぜ。じゃあな!」
俺はこの時、高橋が神様か仏様に見えた。お前って奴はどこまで良い奴なんだ、高橋。自分だって今、新規プロジェクトや、他の自分の仕事とかで余裕なんてないはずなのに。
―俺は良い同期を持って幸せ者だな
そう思いながら、この日は帰路についた。いつもより夜空がほんの少しだけ、明るく見えた気がした―。