空気が打って変わって穏やかになったのをリルは肌で感じた。

張り詰めていたものがすっと解けて、まるで風が頬を撫でるみたいに流れてゆく。


「ほら、今日も頑張るぞ、アーディ!」

「は、はい!」

「おい、張り切りすぎてヘマすんじゃねえぞ」

「大丈夫ですってば!」


軽い調子のリュートとアーディの掛け合いを聞いて、リルもふっと笑みがこぼれたその時だった。


「なんだ、リュートの店が改装したってこういうことだったの?」


そんな声と共に、女の子が入ってきた。

釣り上がった大きな目とオレンジ色の短い髪。快活そうな雰囲気を漂わせる彼女は、耳や首元、髪に至るまで様々なアクセサリーを身に纏っていた。


「メア、いらっしゃい」


アーディはメアと呼ばれた彼女に笑いかけるが、メアはアーディに答えずに店を見渡すと「ふうん」と腕組みをした。


「こんな屋台のような店の形をとるとはね。思い切ったことをしたわね、リュート」


それを聞いたリュートは「仕方ねえだろ」とぶっきらぼうに言った。


「改装した店は燃えちまったんだから」


するとメアは目を見開いて、「火事になった店って、リュートの店だったの?」と驚きの声をあげた。


「それはお気の毒ね」

「そう思うんならならつけにしてる金を払ってくれ」

「それは無理」


軽い調子で話をしていたメアはリルを見ると「お客さん?」と問うた。