踏切の警告音が鳴り響く。


青い空の下、灰色のスーツの来た女性が電車が通り過ぎるのを待っている。


あたしは赤い風船を右手に持ち、左側にいる女性を横目で見た。


「ゼロ」


あたしは女性を見てそう呟いた。


とても小さな声だったけれど女性はその声に気が付いて、一瞬だけこちらを見ると、またすぐに視線を前へ……いや、線路の上へと落とした。


この人、ゼロになってる。


あたしは小さな手で風船を握りしめる。


幼いながらに数字がゼロになってしまう事に恐怖心を抱いていた。


今まで数字がゼロになった人を見たことはなかった。


けれど、その数字が減って行っている様子は見たことがある。


ゼロになったらどうなるの?


それはずっと前からの疑問だった。


疑問は晴らしたい。


目の前にいる女性はゼロだ。


女性に興味がある。


と、同時に怖かった。