月日は瞬く間に過ぎていった。俺は童貞でい続けることに耐え兼ね、30歳を過ぎた頃、風俗で童貞を捨てた。"初めては好きな人と"という俺の小さな夢は儚く散った。
それから街コンや、合コンにも積極的に参加したが、どれも上手くいかなかった。俺は徐々に焦り始めていた。
好きな人ができたりもしたが、ことごとく玉砕した。本当に、人生というものはドラマのように上手くいかないものだ。
俺には仕事しかなかった。仕事以外、何もなかったのだ。休みの日も何をしたらいいか分からず、ただ無意味に過ごすしかなかった。
"退屈は人を殺す"とよく言うが、孤独も人を殺す。俺は今、それを実感していた。それでも、いつかきっと、俺にも好きな人と幸せな家庭を築ける日が訪れる。この時はまだ、そう、信じていた。
 迎えた定年退職の日。仕事終わりに職場の仲間から大きな花束と、餞別の品をもらった。嬉しい反面、唯一の居場所からの別れに寂しさを感じ、これからのことを考えると不安でいっぱいになった。
―また一緒に呑みに行きましょう!
そう言ってくれた職場の仲間とは、退職して以降、会うことはなかった。俺は仕事という唯一の生き甲斐と、居場所を失い、完全に孤独になっていた。まるで、使い物にならなくなった機械になったような気分だった。
退職してからは特にやることもなく、何をするでもなく、ただただ無駄に1日1日を過ごしていた。何をしたらいいか分からなくなっていたのだ。
隣に一緒に笑ってくれたり、一緒に泣いてくれたり、一緒に楽しんでくれる人がいないというのは、どうにも寂しいものだ。
家に帰っても"おかえり"と出迎えてくれる人もいない。一緒に御飯を食べてくれる相手もいない、一緒に旅行へ行く相手もいない、一緒に呑む相手さえもいない。実に孤独だ。
―俺は一体、何の為に生きてきたんだ
涙が、止まらなくなった。俺は孤独に殺されそうだった。