次の日は休みだった。俺は1日かけて真剣に彼女とのことを考えた。彼女もあの言葉を言うには相当の勇気が必要だったはずだ。告白するまでは不安で、怖くて仕方なかったはずだ。童貞の俺には彼女の気持ちが痛いほど分かっていた。だからこそ、俺もその彼女の真剣な想いに真剣に向き合いたかった。そうじゃなきゃ彼女に対して失礼だと思ったからだ。そして、休み明けの仕事終わりに俺は彼女に声をかけた。
「お疲れ様」
「あっ、お疲れ様です!」
「今ちょっといいかな?この間の返事なんだけど・・・」
「は、はい!」
「ここではなんだからさ、歩きながら話そうか」
彼女の声に緊張の色が混じっているのが分かった。俺と彼女は荷物をまとめてから、会社を出た。時計の針は既に19時を回り、辺りはすっかり暗くなっていた。街灯の光と、街のネオンが周囲を明るく照らし出す。彼女は俺から一歩分離れた距離で並行して歩く。少しの間、気まずい沈黙が流れた。
「あれから佐藤さんとのことを真剣に考えたんだけどさ、やっぱり俺は佐藤さんに対して恋愛感情は持てないんだ。気持ちは本当に嬉しいんだけど、その・・・ゴメン・・・」
彼女はしばらく何も言えずにいた。彼女の顔に徐々に落胆の色が広がっていくのが分かった。俺はまともに彼女の顔を見れなかった。再び、重い沈黙が流れた。
「そ、そうですよね。私みたいな女が先輩と釣り合うわけ・・・ないですよね。すみません、変なこと言っちゃって・・・わ、私これから用事があるんでお先に失礼しますね。本当に、すみませんでした」
そう言うと、彼女は逃げるようにその場を後にした。俺には彼女が泣いているように見えた。心が、痛い。でも、これで良かったんだ。やっぱり好きじゃない相手とは付き合えない。ましてや、結婚なんて。
―そう、これで、良かったんだ
俺は必死に自分に言い聞かせていた。
しばらくして、彼女は突然会社を辞めた。理由は"一身上の都合"ということらしいが、俺には理由が分かっていた。もうこれで彼女と会うこともないだろう。そう、思った。