俺はすぐに会社を早退し、教えてもらった病院へと急いだ。会社から教えてもらった病院までは車で20分くらいだった。しかし、その時の俺には20分が1時間にも、2時間にも思えた。信号に捉まる度に気持ちだけが焦り、もどかしく感じた。
 病院へ着くと車を適当に停め、車にロックをかけるのも忘れ、力の限り走った。頭の中は母のことで一杯だった。母との思い出が無意識に頭の中で回想される。そして、頭の中で何度も母を呼び続けた。
ようやく"集中治療室"の文字が視界に入ってきた。母はこの中にいるらしい。俺は自動ドアが全て開き切るのを待たずに、中へと強引に入った。目の前に色んな器具に繋がれた母の変わり果てた姿が飛び込んできた。モニター心電図には様々な数字が並び、波形が電子音を立てながら表示されている。
「母さん!俺だよ!達也だよ!!」
話しかけても返事はない。モニター心電図の電子音だけがむなしく響き渡る。
「鈴木達也さんですか?」
不意に後ろから声をかけられた。振り向くと白衣を着た、30代半ばくらいの男性が立っていた。
「は、はい。そうです!」
「ちょっとこちらでお話よろしいですか?」