「ハンカチは持った?教科書とか、弁当も持ったかい?」
「あぁ、持ったよ。つーか、いちいちそんなこと訊いてくんじゃねぇよ。ウザいんだよ。小学生のガキじゃねぇんだ、俺は」
「ゴメンね、達也」
 あの時の母の悲しそうな顔は今でも忘れられない。しかし、当時の俺はそんな母のことなどお構いなしに、母にわざと聞こえるように舌打ちをした後、家を飛び出した。
どうして朝というやつはこうも気だるいのだろうか。眩し過ぎる太陽の光が容赦なく降り注ぐ。脚が酷く、重く感じる。頭の中は学校をサボる為の言い訳で一杯だ。心が揺れ動く。
そうこう考えている間に学校の校門の前まで来てしまった。もう逃げられない。意を決し、校門をくぐり抜ける。長い、憂鬱な一日の始まりだ。