オレは警察署の床に、うつぶせに倒れながら、自分が 平穏な暮らしの中にいることを想像した。




きれいに掃除されたリビングで、オレはのんびりとテレビを見ている。




オレが今日まで、まともに生きていたならば、きっとそこには、嫁と子ともがいるのだろう?




もしかしたら、その嫁は、倉田菜々子だったかもしれない。




いつも優しくて、献身的で、オレのことだけを考えて生きていた菜々子。




菜々子はオレをよろこばすために、自分のすべてをオレにくれた。




菜々子の時間も、菜々子の体も、菜々子のお金も、全部、オレのために……。




オレはそんな菜々子を騙すことしか考えていなかった。




オレは菜々子から金を奪えれば、あとはどうでもいいと思っていた。




でも、もしもオレがあの頃に戻れるのなら、菜々子からすべてを奪うこと以外の選択肢を選ぶだろうか?




もしもオレが歩んだ道と違う道を選んでいたら、オレにはどんな今があったのだろうか?