昨日の朝、あのとき見ていた人全員の脳から記憶を消したいと思いつつ、僕は教室から人がいなくなるのを、自分の席に座って待った。


 教室を掃除する男子三人、女子二人が、床をほうきではきながら、ときどきこっちを見ていた。


「こいつ、なんで座ってるの?」「帰らないな」なんて声が聞こえてきそうな視線は何回か感じたけど、こっちはよくわからない幽霊にとりつかれているという、人に言えない事情があるので、ただひたすらに待ち続けた。


 やがて掃除をしていた五人が掃除を終え、一人、また一人と教室から出ていった。最後に教室を出た男子は、僕に「芹沢、おまえなんで帰らないの?」と表情で疑問を投げかけていたけど、口ではなにも言わないまま教室を出ていった。


 やっと、僕一人だけになった。


 なんなんだろう、あの女の子。髪の毛と制服に、血が……。