その言葉を聞いた時、自分の心が満たされた。
ずっとその言葉が欲しかったのだと。
想いが通じなくてもいい。
せめて一瞬でも私の事が好きだったのならば、それを殿下の口から聞く事が出来たのならば、それで満足なのだと。
正妃になるお方を傷付けた罪は重い。
本来は処刑されるべき人間。
しかし殿下は全ては私の罪であると、私の仕出かした罪を不問にし、今まで通り暮らしていた部屋へと戻る事を許された。
そして私も他の貴族の下へと下賜される予定でいたが、私はそれを断り自ら修道院へと行く事を希望した。
それには理由がある。
いくら罪が不問になったとはいえ、大勢の人の前でソフィア王女を傷付けてしまった事実は消えない。
嫉妬に狂う女など、いくら私の身分が高いとはいえ嫁に貰いたくはないだろう。
私を妻にした男性が、後ろ指をさされるだけだ。
そして私自身も、殿下以外の男を好きになれるとは思えなかった。
貴族の結婚は政略結婚が主であるから、心の通じ合わない夫婦など当たり前の世界。
けれど殿下への想いを抱えたままで、一生好きにもなれない男性を夫と呼び、添い遂げるのはどうしても嫌だった。
それならばこの想いを持ったまま、一人神の前で自分の仕出かした罪を償っていく方がよっぽどいい。
両親は私が修道院へ行く事を反対した。
親の言う事を聞かずに修道院へ行くのなら、縁を切るとまで言われた。
私はそれでもいいとそう両親に伝え、その考えを曲げる事はなかった。
死ぬまで神に仕える身になる私に、貴族の位も令嬢と言う名も、何もいらない。
私に必要なものは、懺悔する気持ちと、殿下への想いだけ。
それだけあればいい。
それだけで私はこれからを生きていける。
そう思いながら、毎日神の下で過ごしていた。