「ごめんなさい、エリス・・・」


いたたまれずに、涙が溢れる。

エリスはそんな私を労わるようにハンカチを取り出し、涙を拭いてくれた。


「仕方のない事ですわ、ソフィア王女。私がどんなに想っていても、殿下が私を好きでなければ、結果は辛いだけのものですから。それよりも、幸せだった頃の思い出の中で生きていく方が、幸せな事もあるのです」


エリスは胸に手をあて、微笑みながらそう語る。

その笑みは吹っ切れたような爽やかなもので、逆に切なくなった。


私にはそんな幸せだった頃の思い出が何もないから、その生き方が正解なのか分からない。


でもエリスは本当にそれでいいの?
本当にそれで幸せなの?


そう聞きたかったけど、言えなかった。


その笑んだ顔を、もう歪ませたくはなかったから。




―――こうして、私以外の妻達はそれぞれの道へと歩いていく。


彼女達の後姿を見つめながら、私はただ彼女達のこれからの幸福を願う事しか出来なかった。