―――そこから先の記憶は曖昧だった。


あの女に刃が刺さる鈍い感触と、身体から溢れ出る赤い液体の鮮やかさだけは、脳裏に焼き付いている。



気が付いた時は、暗くかび臭い鉄格子の中。

私の両腕には錆びかけた重く冷たい手錠がされ、思うように身体を動かす事が出来ない。



その時既に私には、なんの感情も湧き出てはこなかった。


怒りも、嫉妬も、悲しみも、何もかも。


身体から流れ出てしまったように、無くなってしまった。




私がしでかした事で、もう私の一族の未来はないだろう。

公爵という身分も返上しなければいけないはずだ。



私も王子の命を狙い次期正妃を殺した罪で、近々処刑されるのだと思う。



・・・でももういい。

正妃になれないと分かった時点で、もう私の人生は終わっているから。


この先どうなろうど、もう関係ない。





もう終わり、全て終わり。


素敵な夢を思い描いていたエリスは、もうこの世にはいないのよ―――・・・。