そこに立っていたのは、今まで姿を現さなかったあの、エリスだった。

その異様な佇まいに、鼓動が激しくなる。



「ふふふ、どうなさったの?そんな怖い顔をして」


エリスは笑いながらそう私に言った。

パチリ、と口元を覆っていた扇子を閉じる。

そこからは綺麗な朱色の唇が弧を描いている。



「あなたこそ・・・」

ごくりと息を飲みながら、そうエリスに返した。

その笑みは異常なくらいに明るい。

けれど目は笑っていなくて、その瞳は明らかに私に対して怒りを向けている。

それが余計に恐怖を煽った。


ナディもそれを感じ取ったのか、私を守るように横に立ってエリスを睨み付けていた。


「たまたま部屋に戻ろうとしたら、あなたが物凄い形相をして駆けていて声を掛けただけですわ。それが何か問題でも?」


「そう・・・。なら私は急いでいるの」