今日は妙に教室が騒がしい。特に他の男共がソワソワしている。なんだ?
「よう。愛する女子の諸君。今日も可愛いねぇ。ところで、今日は何の日か知ってるかい?」
我がクラスのムードメーカー、もとい、お調子者の村瀬だ。いつもながら騒がしい奴だ。少しは静かにできんのか、奴は。
「バレンタインでしょ?知ってるわよ。でも残念ながら、あんたにあげるチョコなんてないわよ。ご愁傷様」
七瀬の声だ。姉御肌で面倒見の良い彼女は一部の男子、女子から人気が高い。
 そうか、今日はバレンタインだったな。すっかり忘れていた。まぁ俺には関係のないことだ。そもそもバレンタインなんてものはチョコレート会社の陰謀に過ぎない。何をそんなにチョコレート、チョコレートと騒ぎ立てるのか理解に苦しむ。たかがお菓子じゃないか。そんなものを貰って何が嬉しいんだ。馬鹿馬鹿しい。
俺は周りには目もくれず、一人黙々と勉強を続けていた。
「あら、貴志じゃない。今日も勉強?相変わらず根暗ね」
そう声をかけてきたのは幼馴染の里香の声だ。こいつとは腐れ縁で、幼稚園の頃から高校2年の現在に至るまで、ずっと一緒だった。家も近所ということもあり、たまに顔を合わせては俺は里香によくからかわれていた。
「なんか用か?何も用がないんなら話しかけないでくれ。勉強の邪魔だ」
「なによ。随分なこと言ってくれるじゃない。こんな美女があなたみたいな根暗に話しかけてあげているのよ?少しは感謝したらどうなのよ」
里香は俺の隣の席の机の上に腰をかけながら、からかうような目つきで俺を見下ろしている