次の日の朝。時計の針は午前五時四十分をさしていた。いつも起きる時間よりも二時間近く早く目が覚めた。実に静かな朝だ。少し静かすぎるくらいに――
寝過ぎてしまい、どうにも頭が重く感じる。少しふらつきながら、海斗は自室の扉を開けた。その時、少し違和感を感じた。しかし、その時はさほど気には留めなかった。
階段を少し下りて一階の様子を窺うかがうと、リビングから明かりが漏れているのを視界に捉えた。明かりを確認すると、海斗は寝惚ねぼけ眼まなこを手でこすりながら一階へと下り、リビングの扉を開けた。母の紀子は父と、海斗のお弁当作りに忙しなく動き、父の昌彦は椅子に座りながら、眠そうな顔でコーヒーを片手に新聞を読んでいる。
「おはよう」
この時、海斗は自分の中で感じていた違和感が確信へと変わるのがはっきりと分かった。自分の声が聞こえないのだ。
海斗は一瞬、何がどうなっているのか分からず、混乱した。父と母が自分に対して何か言っているように思えるが、何も聞こえない。
ふと海斗は昨日のお地蔵様のことを思い出した。同時に、安堵している自分がいることに気付いた――
――これでもう何も聞かなくて済む
と。
海斗は心の中でお地蔵様に感謝した。音のない世界の中でもう一人の自分の悪魔のような笑い声だけがたしかに聞こえていた。
寝過ぎてしまい、どうにも頭が重く感じる。少しふらつきながら、海斗は自室の扉を開けた。その時、少し違和感を感じた。しかし、その時はさほど気には留めなかった。
階段を少し下りて一階の様子を窺うかがうと、リビングから明かりが漏れているのを視界に捉えた。明かりを確認すると、海斗は寝惚ねぼけ眼まなこを手でこすりながら一階へと下り、リビングの扉を開けた。母の紀子は父と、海斗のお弁当作りに忙しなく動き、父の昌彦は椅子に座りながら、眠そうな顔でコーヒーを片手に新聞を読んでいる。
「おはよう」
この時、海斗は自分の中で感じていた違和感が確信へと変わるのがはっきりと分かった。自分の声が聞こえないのだ。
海斗は一瞬、何がどうなっているのか分からず、混乱した。父と母が自分に対して何か言っているように思えるが、何も聞こえない。
ふと海斗は昨日のお地蔵様のことを思い出した。同時に、安堵している自分がいることに気付いた――
――これでもう何も聞かなくて済む
と。
海斗は心の中でお地蔵様に感謝した。音のない世界の中でもう一人の自分の悪魔のような笑い声だけがたしかに聞こえていた。



