わしゃわしゃとゼノの頭を撫でると、手を払われてしまった。



「そんなニヤニヤすんなよ。兄ちゃん気持ち悪い」



酷いな、王子に気持ち悪いはないだろ。



「あーもうー、俺にばっか話させないで兄ちゃんも姉ちゃんとの話聞かせてよ」



丸太の椅子からピョンと飛んで立ち上がり、僕の目の前でニターっと楽しげなゼノ。



うーむ、仕方ないな。


そう言うなら、僕からも1つ話をしてあげようじゃないか。



「じゃあ、ルリマツリの花園でのかくれんぼの話を」


「それもう聞いたー。姉ちゃん眠り姫みたいで可愛かったんでしょー」


「そう! あれはもう本当に!」



話せと言われれば、レティシアのことならどれだけでも話せる。


最早、僕の特技だと言ってもいいだろう。


それ故「あ、しまった。スイッチ入っちゃった」なんてゼノの声が聞こえてきた。


でもレティシアのことを考えている僕には、その声は遠くで聞こえているような感じで。


1人で興奮しながらレティシアとの思い出を語っていた。



「バベル!」



そんな僕を現実に引き戻させたのは、リーシャの余裕のなさげな声だった。


「どした?」


「早く来て! フリュイが!」


「何?!」



フリュイが非常事態のようだ。


ああ、しまった。


目を離すんじゃなかった。



僕は急いで店内に駆け込んだ。