ーー翌日。

 来た。
 今日も背後から忍び寄る気配から始まる。

 いつもならばこのまま一悶着あってから鬼ごっこが始まるのだが、今日はそうするわけにはいかない。

 いつもと同じパターンで始めてしまうと、思わずいつもと同じ様に逃げきってしまいそうだと判断した。

 だからまずは会話しようとはせず、真っ先に逃げる事にした。


 そしてギャラリーが居ない人気のない校舎裏へと誘い込み足を止める。


「こんな所に来てどういうつもり? 袋のネズミじゃない」

 蓮香は形の良い唇に余裕の笑みを浮かべていたが、僅かに警戒と戸惑いを滲ませた声音をしていた。


 他人の視線を遮るために移動したこの場所は、校舎の壁にコの字型に囲まれる様な所で正に逃げ場が無さそうだ。

 蓮香の言う通り袋のネズミだが、和真はこのまま大人しいネズミでいるつもりはない。

 窮鼠(きゅうそ)猫を噛むという(ことわざ)の方のネズミのつもりだ。


「そうだな。確かに逃げ場は無さそうだ」

 そう言うと、蓮香は余裕の笑みを完全に消しあからさまに訝しむ顔になった。眉間にシワが寄っても美人である。