「だから何で俺がお前に血吸われなきゃなんねぇんだよ!?」

「単純明快なことよ。あたしが、あなたの血を吸いたいからよ!」

「それがまた訳わかんねぇんだって!」


 吸血鬼達は無闇に人を襲わない――と言っても例外はある。

 相手の同意があれば、協定違反とは見なされないことになっているからだ。


 それらのケースは恋人同士や夫婦が圧倒的に多い。何故なら、吸血鬼に吸われた相手は性的快楽を味わうからだ。

 和真と蓮香は恋人同士でもなんでも無い、ただの同級生という関係だ。

 こんな状態で血を吸いたいと言われたら、もしかして自分の事が好きなのか? などと思うかも知れない。
 ――本来ならば。


 だが、蓮香が言ったように和真は男子高校生にしては可愛らしい顔をしていた。
 
 身長も平均よりは低い。

 この顔の所為で小学生の頃から振られてばかりいた和真は、恋愛という意味で女子から好きと言われるはずが無いと思い込んでいた。


 実際、蓮香の口から好きと言う単語が出たことは無かったので尚更だ。

 結果として、理由は分からないが蓮香は自分の血が吸いたいだけなのだと結論を出した和真だった。


「とにかく嫌なもんは嫌だ!」
 そう言い切って、文字通り脱兎のごとく和真は走り去る。

「あっ! 待ってよー!」
 そしてそれを蓮香が追いかける。

 こんな風に、毎日恒例となった放課後の鬼ごっこが始まるのだった。