……来た。

 目的の人物を見つけ、和真は緊張を強める。

 逃さないように。
 捕まえられるように。


 だが相手は人ならざる者。簡単には捕まらない。

 でもそれでいい。簡単だとつまらない。

 そう思ってしまうのはハンターの血筋だからだろうか?

 それとも和真の彼女に向ける思い故だろうか?


 彼女――蓮香は、和真の存在に気付くとすぐに踵を返した。

 初めから逃げる気満々だ。
 だが逃すわけがない。

 以前とは逆に、鍛えた俊敏性で和真が蓮香の前に立ち塞がる。


「何で逃げるんだよ? 俺の血吸うんだろ? 昨日も『明日にする』とか言ってなかったか?」

「きょ、今日も気分じゃないのよ。また明日ね!」

 そう言い残しすぐに逃げようとする蓮香。
 逃げたら追いかけるに決まってるというのに。


「何だよ、俺の血はもう吸いたくないのか?」

 追いかけながらそう言うと、顔だけこちらに向けて「そんな事は言ってないでしょ!」と否定してくる。

 思わずニヤリと笑ってしまった。


 そうして否定するから追いかけるのをやめられない。

 逃げながら、恥ずかしそうに耳を赤くしているのを見るから捕まえたくなる。


 蓮香に向ける和真の思いは何と言う名前なのか。

 その答えはまだ出していない。

 答えを出すのは彼女を捕まえてからでも遅くはないはずだから。


 (かく)して、吸血鬼とハンターの本来の追いかけっこが始まった。

 この鬼ごっこは、どちらが勝っても恐らくハッピーエンドとなるのだろう。



「絶対捕まえるからな!」

「捕まるわけにはいかないわよー!」


END