面白いほど変わっていく表情に、和真はニヤリと傍目から見ても悪どい笑みを浮かべた。

「どうした? 俺の血吸うんだろ?」

「っ! そう、だけど」

「じゃあ吸えよ」

 完全に怖気付いた蓮香。
 肩から手が離れていきそうになる。

 だがそれを和真が押さえる様に掴んだ。
 そして自分から顔を近付け、蓮香の耳に囁く。


「俺の血、吸いたいんだろう? 吸えば良いさ。その代わりに、吸った後で今度は俺がお前を襲うけどな?」

「っっっっっ!!」


 声にならない悲鳴を上げて、蓮香は和真の手を振りほどいて距離を取る。

「どうしたんだよ? そんなに離れたら血吸えないだろ?」

「……っ。かっ! 可愛い顔で襲うとか言わないでよ!」

「可愛い顔してても俺だって男なんだよ」

 顔の事を言われて少しムッとした。だが明らかにテンパっている蓮香を見るとそれも大した事ではなくなる。


(ヤバイな……。ある意味、ハンターの血が騒ぎそうだ)

 吸血鬼を狩るハンター。だが今は、吸血鬼という以前にこの美しくて可愛い少女を捕まえたい。


「ほら、血吸うんだろ? こっちに来いよ」

 誘う様に右手を伸ばす。そして一歩近付く。
 すると思わずといったように蓮香が後退る。


「えぇっと……。き、今日はやっぱり気が乗らないし……。お腹も空いてないから……あ、明日にするわ!」

 そうどもりながら言った蓮香は、クルリと背を向け逃げていった。


「……明日、ね」

 その背を見つめながら、和真は意味深な笑みを浮かべるのだった。