「茜。今日も行くの?」

「うん」


泉が呆れた声を出すのは、私が水泳部の練習をこっそり見に行っているから。

近くに行ってバレては困ると、プールから少し離れた特別棟の2階から眺めるだけ。


「もっと近くでアピールすればいいじゃん。あんな所から見てたって、見てることすら気づかれないよ」


それはそうだけど……。

まだ、ただの片思いでいい。

彼は今、水泳に全精力を注いでいる。
誰も邪魔なんてできない。


結城君はいつも1コース。
他の部員と力の差がありすぎて、ひとりだけ別コース、別メニュー。

彼は学校で泳いでから、スイミングクラブにも行き、毎日泳ぎこんでいるらしい。


「はぁ。かっこいい」


思わずそうつぶやいても、誰もいなくなった特別棟では聞かれる心配もない。