「きっとそれは誤解だよ」


自分の息子が自分と同じ職業を目指すと知ったら、うれしいものではないだろうか。

お父さんも、照れくさくてそう言えなかっただけなのかも。


「いや……。親父はいつも言うんだ。恥ずかしい大学を出るくらいなら医者にならなくていいって」

「そんな……」


医学部にいけるだけでも私には雲の上の人。
恥ずかしい訳がない。


「でも、卓君はお医者様になりたいんでしょ?」

「茜……」

「だから勉強も手を抜かない。水泳だってそう。インターハイに届かないかもしれないと思っても、あんなに辛い練習を毎日こなしてる。それが卓君の本音なんだよ」


誰がなんと言おうと、自分の気持ちは簡単には曲げられないもの。


嘘をついて本当の気持ちにふたをすると、辛くて苦しくて、たまらない。
今の、私のように。


それきり卓君は黙ってしまった。

だけど、彼の表情が少しだけ明るくなった気がしてうれしかった。