そんな彼に誰より熱心に勉強を教わっているのは、他でもない紡。

それも毎日だ。

毎日毎日毎日、紡は必死で勉強している。



行きたい大学を目指して、弓道一色な日々を過ごしていたあの頃をかき消してしまう勢いで頑張っている。

そんな彼をすごいと思うし、負けていられないと思う。

だけどなにより、あたしとの別れを気にもとめていない様子が、……辛い。



なんだか声をかけるどころか、近づくこともできない。

ただひたすら、意識をぼんやりとさせたまま視界に入れる。



変わらない綺麗な黒髪に、可愛い顔立ち。

なのにその表情は矢を離す直前みたいに真剣。



ああ、なんてひどい。

君はどこまでも、とてもずるい。

あたしが好きな紡のまま、さよならの準備を先に進めているなんて。



『別れたいならそう言えばいいのに』



そんなことを言うくせに、あたしが別れたいとはっきり口にするなんて少しも考えていない。

変わらない紡から別れを切り出す様子も、そんなつもりだって少しもない。



……今は、まだ。