長い間ここでさよならする日々を繰り返してきたせい、もうその言葉の響きまですっかり覚えてしまった。

どれだけ引きとめたくたって、塾だと言われてしまえばあたしは彼の袖をつまむことさえできない。



ずるい。

……ううん、本当はずるくなんかないのに、そう思うあたしが弱いだけ。



「また明日ね」



1ヶ月前も聞いた。

部活最後の日にも聞いた。

合宿帰りにも、はじめてふたりで帰った時にも、今までにたくさん聞いた、紡の〝また明日ね〟。



だけどその〝明日〟はいつまでもやってくるわけじゃない。

いつか、近い未来終わりが訪れる。



それをわかっているのに、同じように返せるわけないじゃない。



声をもらすより先に涙が浮かびあがり、そのまま頬を転がり落ちていく。

ぽとぽとと、ころころと、呆気なく濡れていく。



歪んだ視界の中、背を向けようとしていた紡がその場にとどまっていて。

きっと困らせているとわかっていても、泣きやむことはできそうにない。