「華乃ちゃん?」と不思議そうに聞いてくる声に、俯いたまま笑う。

「こういうの、鳥山さんに誤解されますから」

なにも言わない平沢さんに、続ける。

「付き合ってるんでしょ? 最近、よく見かけるからわかります」

いつもはポンポンと言葉を返す平沢さんが、珍しくためを作ってから答えた。

「付き合ってる……まぁ……そういうことになる、のかもしれない」

ハッキリとしない声色と、言葉だけど……平沢さんの口から直接聞かされた、まぎれもない肯定。

キュッと、さっき掴まれた胸の根っこが、今度は別のなにかに締め付けられる。

冷たいなにかが内側からすーっと身体を冷やしていき、呼吸がわずかに浅くなる。

暗い空から風が吹き付け、頬を滑る。
身体の中が冷たいからか、寒いとは感じなかった。

「でも、華乃ちゃんは別の意味で大事だし。……だから、彼女のこととか気にして遠慮しなくていいから」

静かに、凍った心が、ピシッとヒビが入った音が聞こえた気がした。

息が、苦しい。

「遠慮……」

自然とこぼれた自分の声が、やけに遠く聞こえる。

「遠慮……っていうより、俺が、ただ甘えて欲しいってだけなんだけど。
華乃ちゃんの自立したいって気持ちはわかるから、我慢してたけど……華乃ちゃんから、全然、誘ってくれないし、連絡すらこないし。
この一ヶ月ちょっと、ずっと寂しかったし物足りなかった……とか言ったら、いい年した男がってひく?」

自嘲するような笑みを浮かべて聞く平沢さんに、どうしょうもなく苦しくなってしまい、言葉が出てこない。