とっくに恋だった―壁越しの片想い―



駅前に並ぶケヤキの木。それが風に揺れるところが好きで、よく眺めていたハズなのに。

最近はちっともそうしていないことに今更気づく。

忙しくなったのもあるけど……気持ち的に、上を見上げる気にはなれなかったかもしれない。
平沢さんとのことがあってから、特に。

結局、自分の気持ちに気付いてからは、それまで以上に生活が最低限になってしまっている気がする。

食べることに寝ること……その基準は人それぞれだから、平均だとかそういったものがわからない限り、なんとも言えない。

でも、平沢さんと一緒に食べていたときと比べても、自分の気持ちに気付く前と比べても、落ちているのは確かだった。

こんなに疲れて帰ってきても、ベッドに入ると眠れないのだから、どこかおかしいのかもしれない。

まぁ……でも、こうして動けているんだし、それほど問題ではないか。

そう片付け、アパートまでの道を歩く。

細い路地に入ると、街灯が減り、辺りがぐっと暗さを増す。
最初は気味悪く思えたこの道も、この一週間で、もうすっかり慣れたものだった。

だから……気付けなかったんだろう。

後ろからついてくる足音に。