「営業六年もやってれば顧客に苛められるのなんて慣れてるし。梨元社長にだって言われ慣れてるつもりだった。いつもなら、流せてたの。
でも先月は……疲れもあったのか、他に色々溜まってたのかわからないけど、うまくできなくて。ストレスって、ちゃんとうまく逃がさないとダメなんだって改めて実感したわ」
「うまく逃がす、ですか……」
それってどうやるんだろうと、考えていると樋口さんが続ける。
「人前で泣くのは好きじゃないけど、でも、泣いたらスッキリしたはスッキリしたかな。翌日、死ぬほど出社しにくかったけど」
「あー、それは確かに顔合わせにくいですよね」
「野々宮さんも人前で泣いたりしなそうだもんね。最近の女の子は涙なんて男落とすために自由自在に出したりひっこめたりできそうだけど、そういうタイプじゃないわよね」
「最近の女の子って……そんな離れてないでしょ」
「五年の差は大きいでしょー」
「確かに、泣きませんけど」
灰皿の周りについた水滴をぞうきんで拭きながら言うと「でしょ?」と、自慢げな笑みを浮かべられた。
「ずっと思ってたのよね。弱い部分を周りに見せるのが嫌なところとか、多分私と似てるんだろうなぁって」
「……それは誰でも嫌なんじゃないですか」
「そうでもないでしょ。弱い部分をわざと見せてうまいことやる子もいるし」
「なんか……樋口さんの周りの女の子って随分男にこびた感じなんですね」
呆れて笑うと、「先に結婚していった同期なんてみんなそんな感じよ」と鼻息を荒くして言われてしまった。
ふーっ、と勢いよく白い煙を吐く樋口さんを眺めながら、そういえば、と思い口を開いた。



