とっくに恋だった―壁越しの片想い―



「野々宮さん、今まで散々、梨元社長に言われてるのに平気な顔してたじゃない。
聞き流してるつもりでいても、本当はフラストレーションが見えない部分でずっと溜まってて、決壊したとかそういうことなんじゃない?」

風邪が最有力候補だけど、それもあながち否定もできないな……と思う。

梨元社長の言葉には悪意しかないし、そういった気持ちは受け流していても不愉快だから。

今までは特に感じてこなかったけれど……樋口さんを含めたベテラン社員さんだって耐え切れずに涙を流したりしているのだから。

私がそう簡単に聞き流せるものでもなかったのかもしれない。

「決壊……樋口さんも、ずっと我慢してて先月決壊しちゃった感じですか?」

先月、泣き出してしまったことを思い出し聞くと、歪めた眼差しを返された。

「それ、思い出したくないんだけど」
「すみません。樋口さんみたいにサバサバしてる人が泣き出すって、インパクト強くてつい」

どう見たって、仕事のことで、しかも職場で泣き出すタイプではない。

例え泣くくらいツラいことがあったとしても、人前で泣くなんてことはしなそうだ。
プライドだって高そうだし。

だから、その樋口さんが泣き出したのを見たときは、本当に驚いた。

でもやっぱり、本人にしたら嫌な思い出でしかないかと思い謝ると、樋口さんは「私だって泣くつもりなんかなかったのよ」と、苦笑いを浮かべて話す。