とっくに恋だった―壁越しの片想い―



「二週間後から、新しい定期の受け入れが開始になるじゃない? それの根回し運動」
「ああ、抽選で金利が上乗せされるっていう……確か、毎年この時期にやってるんでしたよね?」

「そうよー。だから二週間後からの定期受け入れ期間は覚悟しておいたほうがいいわよ。忙しくなるから」

樋口さんが、ふー……と、換気扇に向かって煙を吐き出した音が小さく響く。

「わかりました」と言いながら、給湯室前にある吸い殻用のゴミ箱に灰を捨てる。

集めた灰皿、四つの中身を払ってから水洗いし、蛇口をひねったところで樋口さんが聞いた。

「なんか、野々宮さん、疲れてそうね」
「そうですか?」

「うん。横顔見てたらそんな感じがした。なになに、五月病が今頃って感じ?」

声を弾ませながら聞く事でもないだろうと思いながら「そうなんですかね」と適当に返す。

「五月病かはわからないですけど、なんか気持ちが落ち込んだままなので、もしかしたら風邪の引き始めなのかなぁって思ってたところです。
いつもは流して聞ける梨元社長の嫌味も、今日はなんだか笑えませんでしたし」

「あれは誰も笑えないでしょ……あ、そうか。今日梨元社長のところ行ってきたんだっけ? なら、気持ちが落ち込んでるのはそのせいなんじゃない?」

煙草の灰を灰皿に落としながら、樋口さんが続ける。