とっくに恋だった―壁越しの片想い―



梨元工業を出たときから……もっと言えば、たぶん、梨元工業に行く前からどこか気持ちは重たいままだった。

別に、仕事が嫌だとかそんなことは思っていないのに。
切り替わらない気持ちは自分でも不思議なほどだった。

やっぱり、風邪の引き始めだとかそんなかもしれない。

今日はあったかくして寝ないと。
そろそろ毛布でも出しておいてもいいし。

そんなことを考えながら、営業のハンディー端末の伝票と現金を集め、出納機に入金する。

それぞれの伝票に記入されている金額と、実際入金された金額に誤差がないかと一枚一枚確認しながら作業を終え、営業のハンディー端末分の処理が終わったことを出納係に伝える。

まもなくして、出納の処理を終えた出納係が、お店全体での、今日の入出金金額が、オンライン上の数字と実際の数字が合ったことを、「合いましたー」と大きな声でみんなに伝え、ホッと胸を撫で下ろした。

これが「合いませんー」のときは、その合わない理由を社員全員で突き止めない限りは帰宅できない。

誤差の金額に見覚えはないか、誤差の金額の取引はどれだ、と一日の伝票をひっくり返しての大騒ぎになる。

この半年で私は三度それを経験したけれど、一番遅くなったときで、二十一時。

でも、原因が分からず零時を超えたという話も聞くから、ついていた方だとは思う。

そして、何時間にも及ぶ捜索の結果、その原因を作ってしまったとわかった社員さんは、本当に申し訳なさそうにみんなに謝っていて……それを見て、絶対ミスはしたくないなと思った。

だって、あんなの、周りの人に申し訳なさすぎて居たたまれない。