とっくに恋だった―壁越しの片想い―



支店に戻って、フロアに入ると、時計は三時を指したところだった。

預金課の代理がお客様用出入り口から外に出て、周りを見渡してから店頭のシャッターを下ろす。
そして、手で押すタイプのガラスドアと、自動ドアを施錠する。

ガシャン、とシャッターが閉まりきると、流れていた有線も切られ、フロア全体が静まり返る。

各々が、伝票の精査や、今日使用があった書類の締め作業を行っているため、まったくの無音というわけではない。

現金を扱う出納機も、営業が持ち帰ってきたハンディー端末から出したお金を入金しているから、ATMに入金した時のような機械音もする。

おかしな話かもしれないけれど。

ああ、自分は社会人になったんだなぁと一番感じるのは、店頭からお客様がいなくなり、フロアが社員だけになる、この瞬間だった。

無事なにもなく営業時間が終了したという安堵の空気と、営業スマイルが消えたピリッとした緊張。

それが混ざり合っている空気を感じると、気合いが入り直る気がして、きちんと締めの作業を頑張ろうと、いつもなら気持ちが切り替わるのだけど……。

今日はそれがうまくいかない。