とっくに恋だった―壁越しの片想い―



「この間も言ったよねぇ。まだ直らないの? それとも直そうともしないの? 
俺は親切で注意してあげてるんだよ。お客さんって立場の俺に指摘されちゃうなんて、社会人として恥ずかしいことだとは思わないの?」

ニヤニヤとした笑みを浮かべながら言う梨元社長をぼんやりと見つめる。

本当、三週間だかそれくらい前にも言われた言葉の繰り返しだなぁ……と思う。

趣味だったら、もう少し言葉のボキャブラリーを増やしたほうがいい。

取引先っていう立場だから黙ってもいるけれど、違ったら簡単に論破できてしまいそうだ。

もっとも、そういう立場だからこそ、こちらが強くはでられないと知っていて、なんだろうけれど。

なんか……本当に人としてどうなんだろう。
こんなのが趣味で、こんなのが楽しいとか、哀れだなぁ。

「笑顔って、そんなに難しいものじゃないでしょ? 
お客さんに感謝の気持ちがあれば自然とでるものだと思うんだよね。それをできないっていうのは……本当、この仕事向いてないんじゃないの? 
まぁ、今の子、全体に言えることだけど、周りへの感謝ができてないよね」

「申し訳ありません」

いつもどおり笑顔で言ってやろうとして、声だけ出してからあれっと思った。

この間みたいに満面の笑みで答えてやろうとしたのに……笑顔が、作れなかった。

こういう輩に、わざとイラッとくるような笑みを浮かべるのは得意なのに、どうしたんだろうと自分に不思議になる。

……疲れてるんだろうか。