とっくに恋だった―壁越しの片想い―



――『今日、こないだ言ってた鍋しよ。帰ってきたらウチおいで』
――『文化祭、来週末だって。華乃ちゃん、ご都合は?』

平沢さんからのメールは相変わらずで、思わずため息がもれた。

この人は、人の気も知らないで……と思う。

もっとも、私が鳥山さんになにを言われたかなんて、平沢さんが知る訳もない。
だから、こんな風に思うのは、ただの八つ当たりなのだけど。

平沢さんは、自分がモテるってことをもっと自覚すべきだ。

自覚して、知らない場所では平沢さんをめぐる女のドロドロとした争いが渦巻いているとわかったほうがいい。

私は、誰かになにかを言われても結構大丈夫なタイプだからいいけれど。
もしも大人しくてか弱い女の子が巻き込まれてしまったりなんてしたら、可哀想だ。

平沢さんには〝しばらく仕事が忙しそうで都合をつけるのが難しいので〟ということと、〝文化祭には行かない〟ということを伝えた。

鳥山さんに言われたからって、なんで私が今までの生活スタイルを変えなきゃいけないんだとか、普通だったら思うのかもしれない。

でも、平沢さんと私の関係が少しおかしいことには気づいていたから。

確かにそのとおりだな、と自分でも思ったから、鳥山さんの言うように、近づきすぎないことにした。
距離をおいたほうがいいんだと思った。