とっくに恋だった―壁越しの片想い―



そもそも私は、人よりパーソナルスペースが広い。

例をあげるならば、自分の部屋に他人が入り込むことが嫌だと感じるほどだ。

他人に対して関心が薄いんだと思うし、仲良くなる必要性も特には感じてこなかった。
ひとりが好き、干渉されたくないというのが一番の理由なんだろう。

誰かに心を乱されるだとか、そういうことも激しく面倒に思えて嫌だった。

私の気持ちなのに、そこに自分以外の誰かがいるのが気持ち悪い。

それを以前、飲んだときにうっかり木崎さんに言ったら『野々宮って変わってんのなー』とガハハと海賊みたいな笑い方をされた。

『でも、別に見てても人間が嫌いってわけじゃなさそうだし、ただ、今まで出逢ったヤツの中に、気持ちの中まで入れてもいいってヤツがいなかっただけだろ、多分』

ガブガブとアルコールを流し込みながら言われた言葉を今でも覚えているのは、そのとき、図星を刺されたと思ったからかもしれない。

ズカズカと人の部屋に上がり込む平沢さんに、最初こそ抱いていた不愉快さを、だんだん感じなくなっていっている自分に戸惑っていたときだったから。

それどころか、平沢さんのつくる空間に、居心地のよさを感じてさえいるときだったから。