あの人、ポーチを見つけたらそのままひとりで帰るんだろうか。
綺麗な人だし、せめて駅まで平沢さんが送っていくとかした方が安全そうだけど……と、いらない心配をしながら、部屋の鍵を開けたとき。
「ねぇ」と話しかけられた。
見れば、平沢さんの部屋の手前で立ち止まった女の人が、こちらを向いていた。
キリッとした目鼻立ちに、引き締められた口元。シャープな輪郭。
前髪はなく、斜めに流していた。
じっと見つめて待っていると、女の人が微笑む。
「あなたが平沢くんの〝後輩ちゃん〟?」
〝後輩ちゃん〟という単語は聞き慣れなかったものの、どういう意味かはわかったからコクリと頷く。
それにしてもあの人、仕事関係だっていうこの人の前で私の話題を出してるんだろうか。
「野々宮です。高校時代、平沢さんの後輩でした」
「鳥山です。二ヶ月前まで、平沢くんの会社と取引があったの。
それからたまに会うようになって、主には仕事の話をしてるんだけど、野々宮さんの話もたまにするのよ。平沢さん、野々宮さんのこと可愛くて仕方ないみたいね」
「ただ世話焼きなだけですよ」
別に私が特別なわけじゃない。
そういう意味で言うと、鳥山さんは「ふぅん」となにかを含んだような笑みを浮かべる。
年齢は多分、私よりも少し上……もしかしたら平沢さんよりも上かもしれない。
話した感じも落ち着いていて、サバサバしてそうな部分は、会社の樋口さんを思い出させた。
にこっと細められた瞳にじっと見つめられ、そこに今までとは違うなにかを感じ黙っていると、鳥山さんが静かに話し出す。



