とっくに恋だった―壁越しの片想い―



「まだいればいいじゃん。今日、華乃ちゃんが好きな番組あるし、一緒に見るつもりでいたのに。
ほら、空港で外国人捕まえて、なにしに日本にきたんだーって聞くやつ」

「でも、邪魔になっちゃいますし。友達とかそういうわけじゃなくて、仕事関係の人っていうなら余計に」
「ちょっとポーチ探して帰るだけだし、平気だって」
「私も嫌なんです。人見知りですから」
「あー……そういうことなら。まぁ、そりゃそうだよな。華乃ちゃんからしたら気使うし面倒か」

「はい」と短く返事をし、食器洗いにかかる。

使ったお皿は、ドリア用のお皿二枚と、サラダボール二枚だけだからすぐに洗い終えることができて、そのまま腰を下ろすことなく玄関に直行する。

別に、忘れ物を取りにちょっと来るくらい、私が人見知りだとしてもなんでもない。

けれど、相手は仕事関係の人だっていうから、邪魔しちゃ悪いって考えが大きかった。

もしも、私が部屋にいて、同棲しているだとかそういった間違った噂でも立ってしまったら。
それで、平沢さんの仕事に影響してしまったりしたら、堪ったもんじゃない。

そう思い、靴を履いていると、玄関まで見送りにきてくれた平沢さんが「そうだ、来週あたりどっかで鍋しようと思うんだよね」と声をかけてきた。

なにを食べようが平沢さんの自由だ。だから、別に勝手にすればいいし……とは思ったものの。

季節はまだ九月末。
聞き流すには無理があった。