とっくに恋だった―壁越しの片想い―



「一昨年行ったときには、まだ生徒会がお化け屋敷するっていう変なルール守られたままで笑ったんだけど。今年は一緒に行かない?」

プラスチックの網と手を洗いながら誘われ、思わず眉を寄せると、「すげー嫌そう」と笑われる。

「正直、面倒じゃないですか。他の人誘って行ってください」
「えー、せっかくこうしてお隣さんなんだし、華乃ちゃんと行きたい。あ、屋台のもんとか驕るし」

「……まぁ、考えておきます」
「嘘だ。それは考えないときの言い方だろ」
「考えておきますって。あ、そろそろドリアが焼けますね」

あからさまに話題をそらすと、平沢さんはやれやれといった感じで小さく笑って息をついたあと、視線をオーブンに移した。

焼き上がったドリアは、やっぱりおいしかった。

何度か手順は見ているし、一緒に作ったこともあるから、レシピは私の頭の中にだってあるのに。
以前、一度作ってみたときには、同じ味にはならなかった。

今日、平沢さんの手順をずっと見ていたけど、そこに私が記憶している以外の特別ななにかはなかった。

なのに、一体なにが違うんだろうと、ドリアをもぐもぐして食べ終わったころ、平沢さんのスマホが鳴った。

どうやらメールだったらしく、それを見た平沢さんは「忘れ物……?」と眉を寄せ、辺りを見回しだす。

それを不思議に思いながら眺めていると「今のメール、さっきの人からなんだけどさ」と、平沢さんは四つん這いになりキョロキョロと探し物をしながら話す。