「トマト食べたいです」
「言うと思ったから買ってあります。華乃ちゃんが好きなプチトマト」
「……憎たらしいドヤ顔。……ありがとうございます」

レタスを適当にちぎり、ヘタをとったプチトマトと一緒にプラスチック製の網に入れ、水でさっと洗う。

その手元を眺めながら「文化祭とかそういうの、好きでしたもんね」と話題を戻すと、平沢さんが笑う。

「うん。だって楽しいじゃん。みんなで騒ぐのとか。生徒会に入ってた年は特に楽しかった。生徒会の出し物でお化け屋敷やったのとか」

「ああ……平沢さんの吸血鬼コス、はまってましたよね。今でも思うんですけど、平沢さん受付だったのにコスプレする必要あったんですか?」

雰囲気作りがうまそうだという理由から、平沢さんは受付係を担当していた。

周りからの期待通り、平沢さんは薄笑いを浮かべながら、作り物の牙を口元に覗かせ、さらにはカラーコンタクトまでするという徹底ぶり。

口の上手さも発揮して、お化け屋敷に入る前にお客さんの気持ちを十分すぎるほどに盛り上げてくれたのだけど。

はたしてあそこまでする必要があったのか。

そんな疑問に、平沢さんはケラケラと笑いながら「だってそのほうが楽しそうだったから」と答えた。
まぁ、そういう人か、と思う。