九月、まだ夏の色が残る空は、十八時半という時間でも明るさを保っていた。

水色と黒を混ぜたような空に、細かい星が散らばっているのを見ながら、アパートの集合ポストを確認する。

中に入っていた宅配ピザのキャンペーン広告を取り出してから、二階へと伸びる階段を上がる。二十段にも満たないそれに、ため息を落とした。

防犯上よくないと二階にしたけれど、疲れている身体にはこの十数段がズシリとこたえる。
残業時間的に言えば一時間ではあるものの、今日は取引先で嫌なことがあったぶん、精神的にやられている。

こんな日はなにも作りたくないなー……と考えてから、冷蔵庫の中身を思い出し、しまったと眉を寄せた。

そういえば、適当に食べられるものなんてなにもなかった気がする。

いつも買い込んでおく菓子パンの類も、今朝ので最後だった気がするし……だからと言って、上ってきた階段を引き返して、コンビニに行く気にもなれなかった。

コンビニまでたった五分、という条件を聞いて、喜んでこのアパートを契約したときには、その五分ですら面倒だと思う日がくるなんて思ってもみなかった。

自分に面倒くさがりの一面があると気付いたのは、ひとり暮らしを始めてからだ。

……まぁ、最悪、フルーツ缶詰でも食べればそれでいいか。

そんな風に思いながら、四枚あるドアの奥からふたつめの前に立ち、鍵を取り出してから改めてドアと向かい合って。
鍵穴の上に貼ってあるメモに気付く。