その前の週に梨元社長のところに向かった男性社員は、帰ってきてからいつもの倍以上の煙草を吸い、他の営業に愚痴り倒していたのは知っている。
そこまで考えて、梨元社長の人をいじめる言葉のボキャブラリーってすごいなと変なところで感心していると、木崎さんが言う。
「大丈夫かなーって昨日、大川から話を聞いたときから思ってたんだけど、本当に平気って顔してるから驚いた。なんか、相当いいストレスの解消法でもあるの?」
「ストレスの解消法……でも、やってることなんて帰ってご飯食べて寝るくらいですけどね」
「うええ、そんだけで解消されんの? だとしたら野々宮、受け流す能力がずば抜けてるんだと思う。わけてほしいわー」
驚いた様子で言う木崎さんに、ははっと乾いた笑いを零す。
「木崎さんの底抜けの元気と明るさをわけてほしいっていう人のほうが、いっぱいいると思いますけどね」
「あ、それ、俺がすげーよく言われるやつだ」
「でしょうね」
「野々宮も?」
聞かれて、考えもせずに「私はいいです。疲れそうなんで」と答えると、木崎さんは明るく笑った。
「野々宮らしいなー。まぁ、いいや。とにかく、溜め込んでないでキツくなったら言えよって話。
いっくら受け流すのが上手くてもさ、飯食って寝るだけじゃやっぱりストレスも溜まるだろうし。
ほら、よく言うじゃん。隠れ脱水とか、隠れウツとか」
「ああ、確かによく聞きますね」
「だろ? だからかくれんぼしてるストレスが出てきたりしたらさ、いつでも言って。飯くらいおごるし。俺、先輩だから」
ニッと満面の笑みで〝かくれんぼ〟なんて言う木崎さんに、「まぁ……じゃあ、ストレスを見つけたら」と答えると、「よしっ」と頭をポンと撫でられる。
その手の大きさに、やっぱりこの人、どこも似てないけど根っこは平沢さんと同じだなぁとおかしくなってこっそり笑った。



