正直、営業に一緒に回る前は、なんで木崎さんの成績がいいのかが、わからなかった。
ただ元気な人っていうイメージしかなかったから。
こうして一緒に回り、木崎さんの営業を隣で見るようになってからは、ああなるほど……と、その理由がわかったけれど。
天性的に人と接するのが上手い人なんだと思う。
「だからさ、野々宮が無理してんなーって時とか、見てて結構わかるんだよね。他の社員悪く言うわけじゃねーけどさ、割とみんな平気で愚痴ったり女性社員なんか泣いたりもしてんじゃん。
けど、野々宮ってそういうことないから、きっと相当溜め込んでんだろうなーって実はずっと思ってたんだよね」
進行方向を見ながら言う横顔を見ながら、先日の樋口さんの泣き顔が頭をよぎる。
私が梨元社長にネチられる前、そこに行ったのは樋口さんだった。
樋口さんは、営業部では私を除くと唯一の女性社員だ。
顔立ちはハッキリとしていて、美人だと思う。黒いゆるふわボブで、前髪はセンターでわけている。
表情は豊かだけど、ここだけの話、どれも演技のような気がして私はあまり得意じゃない。
もっとも、仕事上の付き合いしかないから、人柄なんてどうでもいいけれど。
樋口さんは、営業の仕事も三年目でもう顧客の扱いなんて慣れたものだ。クレーマーだろうがなんだろうが上手くこなす。
そんな樋口さんが、梨元社長になにを言われたのか、支店に帰ってきて自席に座るなり泣き出してしまったのは先週のことだ。



