「なんだ、本当に平気だったんだな。野々宮、強がってるだけかと思った」
私の顔色や表情の中から、一体なにを感じとったのか。
木崎さんは安心したような笑みを浮かべてから運転に戻る。
見れば、信号が青に変わっていた。
「俺さー、人の気持ちっていうか、そういうの、なんとなくわかるんだよ。あ、今こいつ嬉しいんだなーとか悲しいんだなーとか。表情でね、わかんの」
「……それは、私もわかりそうですけど」と言うと、「違う違う、そういうんじゃなくて」と木崎さんが難しそうに眉を寄せ続ける。
「なんて言えばいいのかわかんないけど、直感でビビッとくんの。こどものときからそうでさ。隠し事されてんなーとか、今のは本音じゃないなーとか分かっちゃうの。親になんか気味悪がられるほどだった」
そんな説明で、もう十分だと思ったのか。
「まぁ、そういう感じ」と笑顔で言われて、少しポカンともしたものの。
他の誰でもない木崎さんが言ったからなのか、まぁ、そうなのかと、不思議だけど腑に落ちる。
一緒に営業先を回る中で、顧客との間がとても上手い人だなぁという印象は前からあった。
それは、顧客の不安を読み取るタイミングだったり、それを感じ取った上での補足の説明内容だったりと色々だけど、とにかく顧客の気持ちを開くのが上手い人だ。
相手が欲しているものをすぐに感じ取り、用意して安心させてくれる。
そういったことを、裏なんてない素直な笑顔と態度でされてしまえば、木崎さんの案内に頷かない顧客は少ないんだろう。



