『おかえり。今日はミルフィーユ鍋です。着替えたらおいで』

玄関ポストに入っていたメモを読みながら靴を脱ぐ。
携帯の番号も知っているし、メッセージアプリでも繋がっているのに、平沢さんはこういうメモをよく玄関ポストに残す。

平沢さんの書く字は割と好きだから、仕事から帰ってきてメモが入っているとホッと嬉しい気持ちになることを、彼は知らない。そしてもちろん、伝える気もない。

私だけの秘密だ。

「ミルフィーユ鍋……おいしそう」

メモをキャビネットの上に置く。
それから、着ていたブラウスのボタンをひとつひとつはずしていき……下着とキャミソール姿になった自分の身体を、上から見下ろした。

そこにあるのは、申し訳程度の膨らみがふたつ。

自分で触ってみても、本当にここに男性の夢が詰まっているんだろうかと首をかしげたくなるようなわずかな膨らみに、小さくため息をもらした。

平沢さんと付き合うことになり、それを樋口さんと木崎さんに報告したのは、翌週の火曜日。

『よかったなぁああ!』『よかったじゃない!』と喜んだあと、樋口さんは、ハッとして顔から笑みを消した。
木崎さんにつられて、うっかりテンションをあげてしまった自分が恥ずかしくなったんだと思う。

そういうところは本当に私と似ている。

そして、真顔に戻った樋口さんは、私の控えめすぎる胸を心配し、『野々宮さん、とりあえず、豆乳生活始めよう』と言ったのだった。

それが、今から二ヶ月前のこと。