「え、あの……」
「やだ?」
「え……あ、いえ、やだとかそういうんじゃなくて……」

キスだとか。
正直、まったく考えたこともなかっただけに、うろたえることしかできない私を、平沢さんがじっと見つめてくる。

背中に手を回されたまま、至近距離から覗きこまれ、どうしようと困っていると、「嫌じゃないならいい?」と、聞かれてしまう。

なんだかズルい聞き方だ、とどこかで思うも……でも、突然のことに焦ってるだけで、嫌なわけじゃない。

だから、意を決して、コクン、と頷くと、平沢さんはホッとしたように微笑んで、ゆっくりと近づいた。

鼻先が重なり、そっと目を閉じる。
なにかが触れた、と思ったと同時に、しっかりと合わされたそれに、緊張からびくっと肩が跳ねた。

ギュッと目をつぶり、初めてのキスに呼吸もままならない状態になっていると、平沢さんが離れ「華乃ちゃん、ちゃんと息して」と言う。

目を開ければ、未だ至近距離に平沢さんがいて驚く。

「鼻でちゃんと息してて」

言われたとおりにすると、「そう。そのまま」と言った平沢さんが近づき、再び唇が重なる。

もう一度とか……予想外のことに、目をつぶることさえできないでいたけれど……。
角度を変え、なんども触れるだけのキスを繰り返す平沢さんに、頭の中がとろんと溶けだす。

平沢さんの服をギュッと握りしめながら、私も目を閉じようとしたとき。

それよりも先に、聞こえてきた音にビクリと肩をすくめ、目を見開いた。

うしろで、ガチャッと鍵の開く音が聞こえて、慌てて平沢さんの胸を押す。