「研修ある日って、直帰でいいものだと思ってました」
「いや、別に自由でいいんだけどさ。俺はまだ仕事残ってたし。研修で一日時間潰されたから、昨日の仕事できてないじゃん。それを翌日に全部回すのは嫌だったから、ちょっとやりに」
営業は、たいてい他の部署よりも残業時間が長い。
それは、日中外回りをしている間にはできない事務作業を支店に帰ってきてからしているからで、そういった負担を減らすためにもと、支店長は新人を営業サポートに置いているんだろうけれど……。
実際には営業本人じゃないと進められない事務も多くて、それは残業時間を見ても一目瞭然だった。
「お疲れ様です」と言うと、木崎さんは「さんきゅーな!」とニコッと満面の笑顔で答える。
それから「あれ、なんの話だっけ? あ、そうだ、梨元社長の件」と話題を元に戻した。
「とにかく、そんな感じの話を聞いたからさ、もしかしたら野々宮、こっそりへこんでんじゃねーかなって思って。ほら、野々宮って素直じゃないじゃん。だから」
木崎さんの人柄の説明に、〝言動がストレート〟〝言葉も感情も一切包み隠さない〟という言葉を足しておく。
〝素直じゃない〟なんてことは私自身よくわかっているし、今更言われたところでどうしたってこともない。
それでも、他の人からこんな風に真正面切って言われたら少しはムッとしてしまうところを、木崎さん相手だとそんな気にもならないから不思議だ。
この人が裏表なく、悪意もなにもない、純粋な気持ちから言ってることだからかもしれない。



