とっくに恋だった―壁越しの片想い―



私は最初から事務希望だったから、預金課なり融資課なりに回されてもよかったけれど、外回りを通して顧客と接することのできる今の仕事内容はかなり勉強になっている。

同行した営業先で、営業の人がどういう切り口で融資や定期預金を勧めるのかは、いつか窓口業務などに回ったときにはすごく役立つと思う。

……まぁ、同行した営業先で、ネチ元さんにあんな風に言われるのがたまにキズではあるけれど。

「野々宮、昨日、梨元さんにだいぶ苛められたらしいな。大川に聞いた」

営業先に向かう途中の営業車の中。
ハンドルを握りながら話しかけてきたのは、営業の中で常に上位の成績をキープしている木崎さんだ。

この人も、人当たりがとてもいいタイプだけど、平沢さんとは違う感じだ。
平沢さんに、素直さと元気良さを足し、なにを考えているのかわからない、食えない感じを引いたのが木崎さんになるかもしれない。

四年も先輩にあたる木崎さんは営業の中でもとにかく元気がよくて、素直だ。
そんな説明を年上の男性にするのはおかしいのかもしれないけど……でも、そうだから仕方ない。

「まぁ、いつもどおりな感じでした」
「いやいやいや、大川でさえ実際あれを自分に言われたらツラいって言ってたぞ。野々宮よく耐えたなって、昨日、研修終わって支店戻ってきたらちょうど話題になってたくらいだし」

言われて、そういえば昨日木崎さんは本店で研修だったと思い出す。
私が帰るときにはいなかったから、そのあと支店に戻ってきたってことなんだろうと「何時頃、支店きたんですか?」と聞くと「十九時ちょいだったかなぁ」と返ってきた。