……大丈夫。落ち着け。
自分でも言い聞かす。
あんなに気を許していた平沢さんだっていうのに、今となっては梨元社長とバッタリ会ったほうがよかったなんてことを思うのだから、思わず苦笑いがもれそうになる。
でも、それも当然だ。
だって、平沢さんは、他の人とは違う。
私にとって、唯一の特別だから。
会うのが、話すのが、嬉しいのに怖くて怖くて……苦しくて、仕方ない。
じっと見つめる先、私たちから一メートルほど距離を置いたところで立ち止まった平沢さんは、私を見て力なく微笑む。
たったそれだけのことでキュッと締め付けられる胸が苦しくて、息を呑んだ。
「華乃ちゃん……よかった。帰ってきた様子がなかったから心配した」
「え……」と声がもれる。
まさか心配してくれてるなんて思わなかったから。
もしかしたら、こうして外に出てきたのも、探そうとしてくれたのだろうか……。
見つめていると、平沢さんが困り顔で微笑む。
「ほら、前、ストーカーに追い回されたこともあったから。もしかしたらって。
……ごめん。放っておいてって言われたのに」
申し訳なさそうに言われて、思わず首を振りそうになったけれど……それをぐっと耐えた。
だって、突き放すべきだ。
今、ここで、嬉しいなんて伝えて元の距離感に戻ってしまったりしたら、ツラいのは自分だ。
せっかく、距離を置けたんだから。
だったら、きちんとそれを保たないと。
戻っちゃ、ダメだ。



