とっくに恋だった―壁越しの片想い―



だから、今日みたいに売られた喧嘩には笑顔で対応してきたわけだけど……。
怒らないからって、何も感じないわけでもなくて。

それを、分かって欲しいなんていうことは思っていないから、職場の人にたいして不満があるだとかそんなんじゃない。

私が表に出さないんだから、気付かないのが普通だ。
そう、私が裏に隠している部分にまで気づく平沢さんが特殊なだけで。

いくら元後輩で、部屋がたまたま隣になったからって、可愛い態度のひとつも見せずに嫌味ばかりを口にする私なんかの世話を焼くことなんてないのに。

ただの後輩にこんな態度なんだから、彼女ができたら、ベタベタに甘やかすんだろうな。
そんなことを思いながら、しめじと油揚げの入った炊き込みご飯を口に入れた。


私の勤める会社は、銀行で、全国的に見ても大手といえると思う。
部署は営業課だけど、文字通り毎日外回りをしているのかと聞かれればそれは違う。

外回りをすることもある。でも、主な仕事は、他の営業が持って返ってきた仕事を、預金課や融資課に回せる状態にすること。

つまりは、顧客記入欄以外の部分を埋め、伝票を仕上げたり、翌日営業が必要とする資料を打ち出したりと、営業のサポート役というのがわかりやすい説明になる。

まだまだ一年目の新人だから、そういったサポートをしながら内部の簡単な事務を預金課の人に教えてもらったり、営業に連れられ外回りをしたりと、色々な経験を積んでいる。

割と事務と営業、どっちつかずのポジションではあるものの、最初の一年間、色んなことを経験させ、そのあとでどの課に定着させるか、という流れが支店長の考えらしかった。