「いや、いいけど……俺が気づかないとでも思った? そんな顔色で、〝ちゃんと食べてます〟なんて言われて信じると思った?」
「……いえ」
「これでも、半年一緒に飯食ったし、話したし、気付くよ。華乃ちゃんの顔色が悪いとか、体調悪そうだなとか、そういうの」

そこまで言った平沢さんは「本当は」と続ける。

「ストーカー事件のときにも、俺の部屋で土田たちと飲んだときにも思ってた。華乃ちゃんの様子がおかしいって。
でもなんか、華乃ちゃん、俺と距離取りたそうだったから言えなかったけど……ずっと気になってた」

傷ついたような笑みで言われ、罪悪感から胸が苦しくなる。

「自立したいって言ってたけど、華乃ちゃん、俺のこと明らかに避けてるし……もしかしたら、構いすぎて嫌われたのかな……とか思うと、怖くて、電話もメールもできなくなった。
幻滅したって、言ってたし」

避けてるっていうのは、電話やメール、インターホン、全部を無視したことを言っているんだろう。

徹底して、出なかったし、電話もメールも返さなかった。
そんなことされたら誰だって、嫌われたと思うのかもしれない。

私に嫌われたかもしれないと思うと怖かったという平沢さんの言葉に、ズキリと胸に痛みが刺さった。

「俺、確かに華乃ちゃんに構いすぎてたかもしれないけど、べつに、こども扱いしてただとか、そういうんじゃないよ。ただ、俺がなんでもしてやりたいって思っただけだった。
でも……もし、そんなふうに感じさせて、嫌な思いさせてたならごめん」

私を見つめる瞳が、不安から歪んでいる。

自分勝手な感情で平沢さんを無視して傷つけて、今もなお不安にさせているのは……私だ。

「俺、もう華乃ちゃんに嫌われちゃった?」

いつもみたいに明るい口調じゃない。
元気のない声に問われて、ふるふると首を振る。

違う。嫌いだから離れたんじゃない。
好きだから。

平沢さんの口から鳥山さんの話を聞くのも、平沢さんの部屋の中に鳥山さんの気配を感じるのも、嫌だったから……だから――。